今日、以前に書いたこともある前の彼女と飲みに行った。
きっかけは昨日かかってきた一本の電話。
「もしもし?久しぶり。元気にしてる?」
「ああ。変わりないよ。そっちは?」
「あのさ、ちょっと話があって。明日とか会えないかな?」
「ちょっと遅くなるかもしれんけど、それでも良かったらいいよ。」
「うんうん。いいよ。じゃ、○時にいつもの所で待ってるから。あまりにも遅くなりそうなら連絡して。」
「うん。分かった。じゃ、またな。」
わずか3分程度の会話。でもその声は懐かしく、抑えていた心の奥底にある感情を容赦なく揺さぶる。昔の自分と彼女とを思い出すには十分な時間。
…結局終業時間直前に緊急のミーティングが入り、待ち合わせの時間には間に合わなかった。
今日行こうと考えていた店は、昔によく行ったことのある店だったので彼女には先に入っててもらった。
「よ。遅くなってごめんよ。」
「遅いなぁ〜。待ち合わせして私より先に来たことないんちゃう?」
「しゃあないやん、仕事なんやし。文句言うなら急にミーティング入れたうちの部長に言ってくれ。」
軽口から入る会話。昔と全然変わってない。変わったのは「彼氏彼女」という関係から「お互いのことをよく知っている知り合い」になったことだけ。
しばらく会っていなかったから話の種は尽きない。
基本的なスタンスは彼女が喋って、こっちが相槌を打ったり、ツッコんでみたり、自分の意見を言ってみたり。
でもそんな居心地のいい時間は長くは続かない。
彼女は昨日電話で言った。「話したいことがあるから」と。
「最近どうしてるん?何か変化あった?」
「うーん、特にないなぁ。あ、近々引越ししようとは思ってるけど。」
「そうなん?もったいないやん。まだ3年くらいじゃないの?」
「いや、最近手狭になってきたし。それにあの部屋はちょっとな…いろいろありすぎたから…」
「………」
「いや、ちょっと気分転換しようかなと。しばらく結婚する予定もないし、その気もないし。もう少し日当たりのいい部屋に移ろうと思って。」
「………」
「なんでお前が落ち込むねん。別れたんはお前のせいじゃなく俺のせいなんやから。で、昨日言ってた話したいことって何?」
「私、今月で仕事辞めるねん。で、実家(彼女の実家は長野県)に帰ろうと思って。」
「………」
「両親がうるさいのよ。別れたことを言ってから。こっち帰ってきて見合いでもしろって。」
「………」
「もうあっち帰ったら会うことも無くなるだろうから。その前に一度会いたかってん。無理言ってごめんな。」
「………」
「なんであなたがそんなに落ち込むのよ。そんな顔されたら安心して帰れないじゃないの。」
「…ああ、ごめん。そうか、あっちに帰るんや…そうか…」
「…うん。」
そこからは二人とも無言。それまで話していた時間の方が遥かに長いはずなのに、その無言の時間は永遠にも感じられた。
「そろそろ出ようか。」
「…ああ、そうやな。」
彼女を駅まで送る間も二人とも無言のまま。
言いたいことはたくさんあるのに。
駅についてからも彼女はなかなか改札をくぐらない。終電の時間は刻一刻と迫ってくる。
〜次の電車が○○行き最終となります。お乗り遅れのございませんように〜
駅員のアナウンスが流れる。
彼女に行くように促した。そして最後に搾り出すように言った。
「向こうに帰ったら、俺のことはすぐに忘れて、誰かいい人見つけて幸せになってくれよ。俺はお前と一緒にいれて幸せやった。けど、俺はお前を幸せにできへんかった。ほんまにごめん。だから、だから絶対に幸せになってくれ。それを俺はいつまでも祈ってるから。今まで本当にありがとうな。」
彼女は泣いていた。
僕はさすがに彼女の前では泣かなかったが、これで本当に終わったんやなと思うと自然に涙が出て一人、地下鉄の車内で泣いた。大の男が突然泣いてるのを見て、周りの客はきっと引いていたに違いない。
今も目を閉じれば浮かんでくる彼女の顔。彼女の声。
もうこんなに人を好きなることはないかもしれない。
だから、いつまでもこの思い出を胸に生きていく。
女々しい奴といわれようとも。
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